
Branta canadensis (Linnaeus, 1758)
コブラチキンと呼ばれる理由とは
Why are they called Cobra Chickens?
北米原産の大型のガンで、最大全長110cmになります。ヨーロッパ、ニュージーランドでは狩猟や愛がん飼育を目的としてに導入された結果、爆発的に増殖しました。
北米では渡りを行わないカナダガンが外敵が少ない都市周辺部に増えており、農産物を食い荒らしたり、鳥インフルエンザを拡散させたりする害鳥扱いとなっています。シューという音を立て、人に対しての攻撃性もある本種は現地で「コブラチキン」と呼ばれ、忌み嫌われています。また、航空機への衝突によるバードストライクの被害も多く、24名の死者が出た1995年のアメリカ空軍機の事故や、「ハドソン湾の奇跡」で知られる2009年のUSエアウェイズの墜落事故の原因になっています。
日本では1985年に2羽の生息が記録されてから、25年後の2010年には関東地方で100羽の繁殖が記録されており、生態系への影響及び、近縁種であるシジュウカラガンとの交雑が懸念されていました。2014年にようやく特定外来生物として指定されたことで、防除活動が早く進み、自治体や民間による成鳥の「捕獲」及び「擬卵交換」による増殖抑制の効果で生息数は減り続け、2015年には野生での生息はなくなり防除事業は完了しました。
かつて北米の荒野に棲みつき、春は北へ、秋は南へ、V字のフォーメーションで渡りを行う姿はその季節の風物詩でもありました。19世紀前半の博物画家オーデュボンが活躍した時代には多くのカナダガンがいて、狩猟の対象になっていました。肉は上等で羽毛、羽軸、脂肪まで使われ、卵も大変おいしく、捨てるところがないほど役に立つ生き物だとオーデュボンは書き記しています。彼は気性の荒い彼らを手懐けて飼育もしていました。19世紀末には過度な狩猟や生息地の減少により数が減らしましたが、時代は変わり再び繁栄を始め、人間の生活圏に侵入してきた彼らは、もはや長閑な風景の一部ではなくなってしまいました。

This large goose is native to North America, growing to a maximum length of 110 cm. Its introduction to Europe and New Zealand for hunting and petting has led to explosive population growth.
In North America, non-migrating Canada geese have proliferated in urban areas where predators are scarce, and they are considered pests, devouring agricultural produce and spreading avian influenza. Known locally as “cobra chickens” for their hissing noises and aggressiveness toward humans, these birds are often known as “cobra chickens” and are widely disliked. They are also frequently involved in bird strikes, including the 1995 U.S. Air Force crash that killed 24 people and the 2009 US Airways crash known as the “Miracle on Hudson Bay.”
In Japan, two birds were first recorded in 1985, and 25 years later, in 2010, 100 birds were recorded breeding in the Kanto region, raising concerns about the impact on the ecosystem and the risk of hybridization with the closely related Great Tit Goose. With their final designation as an invasive alien species in 2014, control efforts progressed quickly. Their population continued to decline thanks to the effective suppression of reproduction through the capture of adult birds and the exchange of artificial eggs by local governments and private individuals. By 2015, the control program was complete and they were no longer found in the wild.
They once inhabited the wilderness of North America, migrating in V formations, heading north in the spring and south in the fall, becoming a seasonal feature. During the time of natural history painter Audubon in the first half of the 19th century, Canada geese were plentiful and hunted. Audubon wrote that their meat was of high quality, with feathers, quills, and fat used for cooking, and their eggs were delicious, making them so useful that no part of them was wasted. He tamed and even kept these wild geese. By the end of the 19th century, their numbers had declined due to excessive hunting and habitat loss, but times had changed and they began to thrive again. Having invaded human habitats, they are no longer a part of the tranquil landscape.

From an article in the Gleason’s Pictorial Drawing-Room Companion in 1854
アメリカのハンティングにまつわる情景を、もう一つご紹介しましょう。
これは、アメリカ合衆国全土で広く知られているカナダガンの物語です。カナダガンの定期的な渡りは、春の訪れ、あるいは冬の到来を告げる確かな合図として、人々に親しまれています。
晩秋、特に北風が吹く季節になると、カナダガンは空高く舞い上がり、毎年恒例の渡りを始めます。自然の衝動に突き動かされ、彼らは北の生息地を離れます。凍てつく荒野で命を落とすよりも、人間の策略から逃れるべく、新たな冒険へと飛び立つのです。
渡りの際には、いくつもの群れが集まり、大きな縦隊を組みます。それぞれの群れにはリーダーがいて、飛行は重く、骨の折れる作業です。彼らは通常、一直線、あるいは二列の隊形をとり、次第に点のように遠ざかっていきます。
隊の先頭には老いた雄が立ち、時折、おなじみの角笛のような鳴き声を響かせ、仲間の様子をうかがいます。それに応えるように、隊の後方からも「大丈夫だ」と言わんばかりの鳴き声が返ってきます。
やがて、彼らが人間の住む地上の国々にたどり着くと、隊列は狩猟者たちに追われる運命にあります。雄のしわがれた鳴き声は、この国の人々にとってあまりにも馴染み深く、彼らの訪れを誰もがすぐに察知します。そして、皆がその帰還を歓迎するのです。
かつて鋭かった老砲手の目は、彼らの壮大で高尚な飛行を見つめて再び輝き、やがて火縄銃を手にします。熟練の射手は、彼らをまるで「長年の借金を返しに戻ってきた債務者」のように見つめます。夜明け前、彼は囮を積んだ小舟で荒々しい湾を渡り、狙いの砂浜へと向かいます。囮を並べ、砂の中に箱を沈め、身を隠して獲物の接近を待ちます。やがて、彼の鋭い目と信頼する銃が閃くと、死がカナダガン の群れの間を駆け抜けます。
ハドソン湾のイギリス人たちは、このカナダガンをはじめとする様々な種類のガチョウに大きく依存していました。好天に恵まれた年には、3000羽から4000羽ものガチョウを仕留め、塩漬けにして樽に詰めて保存したといいます。
春の訪れを告げるものとして、人々はガチョウの到来を心待ちにしていました。そのため、先住民たちはこの時期の月を「ガチョウの月」と呼んだのです。
野生のガチョウは体調が良ければ10~12ポンド、時には14ポンドにも達し、猟師たちにとって常に最も魅力的な獲物の一つでした。
参考文献
環境省 | 報道発表資料 | 特定外来生物カナダガンの国内根絶について(お知らせ)| (2015年12月8日) 2025年10月4日閲覧
“Bird strike Accident Boeing E-3A Sentry (707-300B) 77-0354”, Aviation Safety Network. 2025年10月4日閲覧
“Canada Goose” Solano County Office of Education. 2025年10月4日閲覧
加藤 ゆき「最新!神奈川県における大型外来亜種カナダガン対策と今後の展開〜対策の概要と博物館としての取り組み〜」 (2010年9月18日), JOGA第13回集会 2025年10月4日閲覧
加藤ゆき「カナダガン 捕獲大作戦」自然科学のとびら 第 16 巻 2 号 (2010年6月15日発行), 神奈川県立生命の星・地球博物館 2025年10月4日閲覧
ジョン・J・オーデュボン著 ; スコット・R・サンダーズ編 ; 西郷容子訳『オーデュボンの自然誌(American nature library)宝島社, 1994.1, pp201-216. 2025年10月4日閲覧
An Article from Gleason’s Pictorial Drawing Room Companion, “The Canada Goose” published Aplil 15, 1854. 2025年10月12日閲覧